【要約】
熊本県宇城地域のキュウリ栽培で課題となっているタバココナジラミのまん延によるキュウリ退緑黄化病や、微小害虫の薬剤抵抗性の発達について、当該地域で普及が進んでいない天敵資材を活用し、微小害虫の密度抑制効果の技術実証に取り組み、課題の解決に向けた普及提案を行った。
背景と目標
熊本県宇城地域におけるキュウリ栽培では、タバココナジラミのまん延によるキュウリ退緑黄化病や、微小害虫の薬剤抵抗性の発達が問題となっている。そのため、化学農薬のみに依存しない総合的な防除体系の確立が喫緊の課題である。そこで、当地域で普及が進んでいない天敵資材を活用し、微小害虫の密度抑制効果の技術実証に取り組み、課題の解決に向けた普及提案を行うこととした。
地域の概要

宇城地域は、熊本県の中央部に位置する宇土市、宇城市、美里町の2市1町からなる。地形的には東西に長く、西側は有明海や八代海に隣接する半島部、東側は九州山地に連なる中山間地があり、それらに挟まれるように平野部が位置し、海、平野、山と多様な自然を有している。このような地形を活かして果樹や花き、野菜(ミニトマトやメロン、キュウリ、ショウガ等)といった様々な品目が栽培されている。今回実証調査を実施したキュウリは、年間を通した出荷量が県内でも上位で、中でも冬春キュウリは、県内2位の出荷量を誇る重要な産地となっている。
当地域における冬春キュウリの主な作型は、8月に定植し1月頃まで収穫する「抑制栽培」と、2月~3月に植替えを行い6月頃まで収穫する「半促成栽培」を組み合わせている。また近年は、7月中旬頃に定植を行い翌年の5~6月まで収穫する「促成栽培(長期栽培)」も行われている。

実証ほの概要
1.実施場所:熊本県宇土市
2.調査期間:2025年2月~7月22日
3.試験区及び慣行区の概要


調査内容及び方法
1.害虫・天敵発生状況
任意の30株(10株×3か所)について、各株の上、中、下位から各1葉(3葉/株)を選び、寄生するタバココナジラミ(成虫・幼虫)、アザミウマ類(成虫・幼虫)及びカブリダニ類数を約14日間隔で計数した。また、コナジラミ類調査のための黄色粘着シート(ホリバーイエロー)、アザミウマ類調査のための黄色粘着シートおよび青色粘着シート(ホリバーブルー)を各区のハウス外とハウス内に1枚ずつ設置し、約14日間隔でトラップ交換及び害虫数を計数した。

2.ウイルス病発生状況
任意の3畝(1畝100株程度)について、キュウリ退緑黄化病・黄化えそ病の発生株を約1か月に1回の間隔で調査し、発生株率を算出した。
3.農薬使用状況
栽培期間中の使用薬剤について、生産者へ聞き取り調査を行った。
4.タバココナジラミに対する防除経費及び収益(10a当たり)
タバココナジラミを対象とした農薬散布の費用を計算し、天敵や粘着トラップを含めた10a当たりの防除経費及び収益を算出した。
5.ハウス内環境
地表から約150cmの高さに温湿度記録計(おんどとりTR43A)を設置し、ハウス内の温度と湿度を1時間間隔で測定した。
調査結果
1.害虫・天敵・ウイルス病発生状況
(1)コナジラミ類
①粘着シートにおけるコナジラミ類誘殺数の推移
○試験区
ハウス外のコナジラミ類誘殺数は、4月2日から6月中旬まで0~2.1頭/日と少なく推移したが、6月下旬に21.1頭/日と増加し、7月中旬には90.1頭/日とピークを迎え、最終調査日(7/22)も74.7頭/日と多く推移した。また、ハウス内のコナジラミ類誘殺数は、4月2日から4月下旬まで0~2.7頭/日と少なく推移したが、5月中旬から7月中旬まで17.6~54.8頭/日と多く推移し、最終調査日(7/22)には96.2頭/日とピークを迎えた。
○慣行区
ハウス外のコナジラミ類誘殺数は、3月4日から最終調査日(6/24)まで0.0~0.8頭/日と非常に少なく推移した。また、ハウス内のコナジラミ類誘殺数は、定植から最終調査日まで0~1.2頭/日と少なく推移した。

②キュウリ葉上のコナジラミ類密度推移(図2参照)
○試験区
タバココナジラミ成虫数は、4月2日から7月中旬まで0~1.0頭/葉と低密度で推移したが、最終調査日(7/22)には4.0頭/葉であった。また、幼虫数は、4月2日から最終調査日(7/22)まで0~0.7頭/葉と低密度で推移した。
○慣行区
タバココナジラミ成虫及び幼虫数は、4月2日から最終調査日(6/24)まで0~0.1頭/葉と、ほとんど発生が認められなかった。
(2)カブリダニ類
○試験区
4月5日に天敵を放飼した。放飼から7月8日まで0.3~1.9頭/葉と高密度で推移した。7月8日にアブラムシ類防除のために天敵に影響のある薬剤(モスピラン顆粒水和剤)を散布したため、7月16、22日には0.2、0.1頭/葉と低密度で推移した。

(3)キュウリ退緑黄化病
○試験区
退緑黄化病発病株率は、4月上旬から5月下旬まで0~3.5%と低く推移したが、6月上旬以降は右肩上がりに増加し、最終調査日(7/22)には88.5%と、9割近くの株が発病した。
○慣行区
退緑黄化病発病株率は、3月上旬から最終調査日(6/24)まで0~2.3%と栽培期間を通して低く推移した。

(4)アザミウマ類
①粘着シートにおけるアザミウマ類誘殺数
○試験区
ハウス外のアザミウマ類誘殺数は、4月2日から5月13日まで0~2.5頭/日と低く推移した。5月下旬から誘殺数が増加し、6月下旬に21.0頭/日とピークを迎えた。その後は右肩下がりに減少し、調査最終日(7月22日)には2.3頭/日であった。また、ハウス内のアザミウマ類誘殺数は、4月2日から最終調査日(7月22日)まで0~0.5頭/日と極めて少なく推移した。
○慣行区
ハウス外のアザミウマ類誘殺数は、3月4日から6月下旬まで0~7.8頭/日と少なく推移したものの、7月上旬に29.9頭/日と多かった。また、ハウス内のアザミウマ類誘殺数は、3月4日から6月中旬まで0~0.4頭/日と少なく推移したものの、その後増加し、7月8日には81.0頭/日と多かった。

②キュウリ葉上のアザミウマ類密度推移
○試験区
アザミウマ類成虫及び幼虫数は、いずれも4月2日から発生が認められたものの、調査最終日(7月22日)まで0~0.4頭/葉及び0~0.6頭/葉と低密度で推移した。
○慣行区
アザミウマ類成虫数は、4月30日に発生が認められ、5月下旬から徐々に増加し、6月下旬に0.8頭/葉と急激に増加した。また、幼虫数は3月4日から発生が認められたものの、その後は減少した。しかし、5月下旬から徐々に増加し、6月下旬に4.7頭/葉と急激に増加した。

(5)キュウリ黄化えそ病
○試験区
栽培期間中に黄化えそ病の発生は認められなかった。
○慣行区
3月17日に黄化えそ病の発生が確認され、5月下旬まで9.0%と発生を抑えていたが、6月10、24日に16.3%、98.2%と急速にまん延した。そのため、6月24日に栽培を終了した。



2.農薬使用状況
●試験区のタバココナジラミに対する化学農薬散布回数(薬剤数)は、定植(3月18日)から栽培終了日(7月23日)までで5回(6薬剤)であった。また、アザミウマ類に対する化学農薬散布回数(薬剤数)は、定植(3月18日)から栽培終了日(7月23日)までで7回(9薬剤)であった。
●慣行区のタバココナジラミに対する化学農薬散布回数(薬剤数)は、定植(2月13日)から栽培終了日(6月24日)までで5回(5薬剤)であった。また、アザミウマ類に対する化学農薬散布回数(薬剤数)は、定植(2月13日)から栽培終了日(6月24日)までで8回(8薬剤)であった。
●タバココナジラミに対する化学農薬散布回数を薬剤数で比較すると、試験区が6薬剤、慣行区が5薬剤であり、慣行区に比べ、試験区は20%増加となった。
●アザミウマ類に対する化学農薬散布回数を薬剤数で比較すると、試験区が9薬剤、慣行区が8薬剤であり、慣行区に比べ、試験区は13%増加となった(データ略)。
3.防除経費及び収量・収益
(1)タバココナジラミの防除経費
10a当たりの防除経費は、慣行区に比べ、試験区が41,094円/10aの増加となった。

(2)アザミウマ類の防除経費
慣行区に比べ、試験区が43,243円/10aの増加となった。

(3)収量・収益
試験区の10a収量は、慣行区に比べ4,856.3kg/10aの増収となった。
試験区の10a収益は、慣行区に比べ1,651,152円/10aの増額となった。
※収益はJA出荷実績をハウス面積で按分して10a当たりに換算

4.ハウス内環境(半促成栽培期間:2025年3月18日~7月23日)
試験区の日平均温度は3月22日から26日まで一時的に25.6℃となったものの、その後低下し、5月14日までは20.6℃で推移した。その後、5月15日から6月12日までは22.8℃とやや気温が上昇し、6月13日から7月23日までは29.3℃と急激に上昇した。 また、試験区の栽培期間における日平均湿度は、73.0%であった。(データ省略)

農家の意見
○試験区(C氏)
5月下旬からキュウリの収穫や芽摘み、除草や水稲の準備などでなかなか薬剤を散布できず、40日間も薬剤を散布しなかったのは初めてだったが、天敵がコナジラミ類とアザミウマ類を低く抑えてくれたので大変助かった。天敵を入れていなかったらと、思うとぞっとする。
作の中盤に薬剤散布ができなかったため、アブラムシ類が多発生してしまい、夏の暑さも相まって、株が急激に弱ってしまったことが今回の反省点。
次作はアザミウマ類とコナジラミ類は天敵で、その他の害虫は薬剤でしっかり防除していきたい。
○慣行区(D氏)
周辺に野菜を栽培しているハウスがなく、コナジラミは元々発生しにくいほ場であるため、例年、アザミウマ類の防除に重点を置いている。
今作は、栽培前半から黄化えそ病が見られ、注意して防除していたのだが、水稲の準備などで防除が手薄になったタイミングでアザミウマ類と黄化えそ病を多発生させてしまった。
次作は薬剤防除だけでなく、天敵を利用してうまくアザミウマ類の発生を抑えていきたい。
結果の考察と今後の課題
試験区は、慣行区と比べて定植日が1か月程度遅く、周辺環境からみても、タバココナジラミ及びアザミウマ類の飛び込みリスクが高い状況下での試験であった(図1、4)。また、抑制栽培が終了した10日後に定植しており、アザミウマ類がハウス内に残っている状況下での試験となった。そのような状況で、タバココナジラミ幼虫密度及び退緑黄化病の発病株率は、慣行区に比べ高かったものの、収量に与える影響は限定的であった。なお、幼虫密度は葉当たり1頭以下に抑えられた(図2、3)。また、アザミウマ類幼虫密度は、慣行区に比べ、葉当たり1頭以下と低密度に抑えられ、黄化えそ病の発生はなかった(図4、5)。
以上の結果から、天敵の活用により微小害虫の発生が抑えられたことで、黄化えそ病の発病を抑制できた。このことから、アザミウマ類密度および黄化えそ病に対して、天敵(スワルスキーカブリダニ、リモニカスカブリダニ)利用技術が有効であると考えられる。
キュウリにおける天敵利用に関する技術や管理方法が3年分蓄積されたため、今年度から、現地に則した天敵を用いた防除暦、天敵に影響の少ない・やや影響のある・影響が高い農薬の一覧表を作成し、地域全体に普及させる取り組みを実施している。令和7年度は新たに5名の生産者が天敵を利用した防除体系を導入し、JA熊本キュウリ専門部会員の約3割まで普及した。初めて天敵を使用する生産者でも、上手にコナジラミ類、アザミウマ類の防除ができるよう、今後も引き続き支援を行っていく予定である。
なお、コナジラミ類防除のため、試験区の定植時処理剤としてプリロッソ粒剤オメガを使用した。
定植時に処理した後、直ちに別の薬剤を散布しているので、本剤単体の防除効果の評価はできないが、天敵にほとんど影響がなく、定植後2週間以内に天敵を導入する際も処理できる薬剤であるため、天敵と併用しやすい。生産者も使いやすさを実感していた。
全体総括
1.タバココナジラミ・退緑黄化病に対する防除効果
2種の天敵利用により、慣行防除に比べ、タバココナジラミ密度を抑制し、キュウリ退緑黄化病の発病を遅延させた。

2.アザミウマ類・黄化えそ病に対する防除効果
2種の天敵利用により、慣行防除に比べ、アザミウマ類密度を抑制し、キュウリ黄化えそ病の発病を抑制した。

3.農薬散布回数及び防除費用
2種の天敵利用により、慣行防除に比べ、農薬散布回数を削減した。しかし、天敵資材などを含めた防除費用は、慣行防除に比べ、高かった。

【参考】①試験区B氏のタバココナジラミに対する防除費用(抑制栽培3年間まとめ)
抑制栽培における試験区B氏の農薬散布回数は、慣行防除の年に比べ、天敵利用1年目で64%削減、天敵利用2年目で54%削減した。
また、防除費用も慣行防除の年に比べ、天敵利用1年目で36,352円/10a削減、天敵利用2年目で22,465円/10a削減した。

【参考】②試験区B氏のキュウリ栽培期間(抑制栽培3年間まとめ)
2種の天敵の継続利用により、退緑黄化病の発病を1ヵ月程度遅延できたことにより、栽培期間が延長し、約2ヵ月半分の増収となった。

以上3年間の結果から、キュウリ栽培での害虫防除において2種の天敵を利用した防除体系は非常に有効であると考えられる。
天敵使用上のポイント
・ゼロ放飼の徹底。
・0.4mm目合いの防虫ネット、ホリバ―、ホリバ―ロール等の物理的防除の徹底。
・相対湿度70%以上の維持。
・摘葉した葉は株元に、芽かきした新芽は葉上に。
・天敵に影響の少ない農薬(選択的農薬)の使用。
提案するIPM防除体系

●実証年度及び担当普及センター
(令和6年度 熊本県宇城地域振興局農業普及・振興課、熊本県農林水産部農業技術課)