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協会の取組 全国農業システム化研究会

乾田直播の導入による省力・低コスト栽培の実証(滋賀県 令和5年度)

令和5年度 水田における土地利用型作物等の生産効率向上に関する実証調査

【要約】水稲における省力・低コスト技術として、不耕起汎用ドリル(実証区1)およびロータリシーダー(実証区2)による乾田直播栽培と移植栽培(慣行区)との比較を実施した。慣行区と比較して、実証区では育苗・移植作業(播種作業)の労働時間が縮減でき、経営的にもプラスとなった。ただし、減価償却費は高くなり、さらなる作業工程等の見直しは必要と考えられた。当初難り、雑草害が発生せず、地域慣行並みの収量を得ることができた。

背景と目標

「背景」
 大区画ほ場における効率性の高い水稲栽培を実現するため、当地域(滋賀県野洲市南櫻)で取組事例のないスマート農業技術を活用した乾田直播栽培を導入し、省力・低コスト水稲栽培を実証することとした。
 また、滋賀県では環境に配慮した水稲栽培が普及していることから、乾田直播栽培で減農薬栽培基準の使用農薬成分7成分以下での栽培が実現可能かを検証する。

「目標」
○スマート農業技術を活用した乾田直播技術を導入し、慣行の移植栽培と比較して、省力性と収量性について検証する。
○乾田直播の播種方式(不耕起汎用ドリルとロータリシーダ)を比較し、播種精度、省力性、収量性について検証する。
○減農薬栽培基準の使用農薬成分7成分以下で、雑草・病害虫被害の抑制が可能か検証する。

対象場所

●滋賀県野洲市

 滋賀県野洲市は、滋賀県の湖南地域に位置している。平坦な立地を活かした水田農業が盛んであり、管内有数の米、小麦、大豆の産地である。水稲作付面積は1430ha、麦、大豆はそれぞれ646ha、676ha、水田面積率は91.5%と、非常に高い。

実証した栽培体系

耕種概要等

○各区の概要

○ほ場条件

○漏水対策

 ケンブリッジローラによる播種前後の鎮圧。

供試機械

○GPSトラクタ(MR1000A)+不耕起汎用ドリル(3P806NT)

○トラクタ(MR800)+ロータリーシーダー(RXG-7SZA)

 慣行区の移植作業にかかる作業時間は0.25時間/10a、作業人員が機械作業2人、苗箱運搬・洗浄3人の計5人であるのに対し、実証区1の不耕起汎用ドリルの播種は、作業時間が0.11時間/10a、作業人員1人と、大幅な省力となった。
 また、播種作業に供試したトラクターMR1000Aは、GPSガイダンスによる直進アシスト機能がついており、播種作業の作業負担も少なくなった。

○コンバイン(DR7130)

 収穫作業で使用した7条刈コンバインの作業時間は0.23時間/10aで、慣行の6条刈コンバインの作業時間0.30時間/10aと比較して少なくなった。
 一日の作業可能面積は2.41haと、慣行の0.85haより広く試算された。

○その他機械

 追肥作業では肥料散布機(フルフルシリーズ)を使用。散布幅15mで施肥作業ができ、乗用管理機にアタッチメントとして設置が可能で、作業時間は0.13時間/10a、作業人員は1名であった。
 慣行区は、乗用管理機の後方に2名が乗車して動力散布機で散布する手法で実施し、作業時間は0.04時間/10a、作業人員は3名で、人数あたりの合計作業時間は、両区で大きく変わらなかった。ただし、肥料散布機による追肥は1人の作業が可能であるため、作業にかかる人員が少ないメリットがあった。
 出穂期にかけての病害虫防除は、ドローンで実施。委託作業で実施したため、作業時間の算出から除外したが、作業人員2名で作業時間は0.05時間/10aと、省力的に実施できた。

結果及び考察

1.播種精度について
 播種量は、実証区1、2ともに6.0kg/10aと、設定どおりであった。
 各区10地点(実証区1は1地点3か所、実証区2は1地点2か所)において苗立数を調査し、F検定によって検定したところ、実証区1のばらつきが有意に少なかった。

2.発芽・苗立数について
 苗立数は、実証区1で132.6本/㎡、実証区2で106.9本/㎡。
 発芽率は、実証区1で56.8%、実証区2で46.7%であった。
 播種深は、実証区1、2ともに0.5cm~2cmとなるように設定したところ、実証区1で1.8cm、実証区2で2.1cmとなった。実証区1の播種機の設定段階で3.5cmの播種深となったところがあり、その部分の出芽は7日程度遅れた。

播種・苗立ちの状況

※10aあたりの乾籾量

生育状況

生育初期、実証区は1、2ともに茎数が多く、葉色が薄く経過出穂期以降は追肥の効果もあり、実証区の葉色は濃かった

3.生育について
 実証区1、2では、慣行区と比較して幼穂形成期の茎数が多く、葉色は薄かった。そのため、実証区1、2では追肥(窒素成分で5kg/10a)を施用したところ、成熟期にかけて実証区1、2では葉色は慣行区より濃くなった。成熟期の穂数は多かった。
 実証区1と実証区2を比較すると、実証区1では苗立率が高く、実証区2と比較して最高分げつ期から成熟期にかけて茎数が多く、葉色は薄く推移した。
 慣行区、実証区1、2と、いずれも倒伏程度は小さく、被害は確認されなかった。
 出穂期以降は追肥の効果もあり、実証区の葉色は濃く、穂数は多くなり、収量は多くなった。ただし、実証区と慣行区で品種が異なるため、単純比較はできない。
 実証区の生育初期の減水深は2.5cmで、慣行区の2.0cmと比べやや大きくなったが、生育等に支障をきたす範囲ではなく、除草剤の効果も認められ、雑草害の問題はなかった。

4.収量・品質について
 慣行区と比較して、実証区1、2で収量が多くなったため、生産物収入は高くなった。
 一方で、慣行と同等の面積(33.85ha)と仮定すると、実証区1、2で雇用労賃は低くなったが、減価償却費は高くなったため、生産原価は高くなった。結果、10aあたりの所得は、実証区で高くなった。
 品質については、本年(2023年)は出穂期から登熟期にかけて高温に推移したことによって白未熟粒が多く発生し、特にキヌヒカリで顕著であった。慣行区はコシヒカリであったのに対し、実証区1、2はキヌヒカリであったため、白未熟粒が多く発生し、等級は3等となった。
 また、実証区1、2では慣行区と比較して玄米タンパク質含有率が高くなった。これは、追肥の施用時期が幼穂形成期から8日後と遅かったことや、施肥量が窒素成分で5kg/10aと多く施用したことなどの施肥体系の違いが影響したと考えられる。

収量

慣行区と比べ、実証区1、2の収量は多くなったが、籾数過多により登熟歩合は低下

5.その他
 当実証では、使用農薬成分数を滋賀県の減農薬栽培基準以内の7成分とした。その結果、雑草、病害虫による大きな被害は生じなかったため、減農薬栽培基準内での栽培も可能であると考えられた。

実証した作業体系について

 実証区1、2の10aあたりの作業時間は、慣行区と比較して約1.4時間少なく、省力性は高かった。また、収量は約540kg/10aで、慣行区の405kg/10aと比較して多かった。
 実証区1時間/10a、ロータリシーダで0.18時間/10aとなり、不耕起汎用ドリルの省力性が高かった。一日の作業可能面積は不耕起汎用ドリルで5.10ha、ロータリシーダで3.08haと試算された。
 播種精度についても、不耕起汎用ドリルが有意にばらつきが少なく、苗立率も良好な結果となった。収量性については、不耕起汎用ドリルとロータリシーダで大きな差はみられなかった。

作業時間

10a当たりの時間(h)

当該技術を導入した場合の経営的効果

 実証区1、2では、慣行区と比較して収量が多くなったため、生産物収入は高くなった。
 一方で、面積を慣行と同等の面積(33.85ha)と仮定した場合、実証区1、2で雇用労賃は低くなったが、減価償却費は高くなり、生産原価は高くなった。結果として、10aあたりの所得は実証区で高くなった。
 これらのことから、慣行と同等以上の収益を確保するためには、21haの作業面積を確保する必要があることが試算された。

経営評価 

(単位:円)
慣行区の移植が0.25時間/10a・人で作業人員が5人(1.25h/10a)
実証区1、2の播種が0.11時間/10a、0.18時間/10aで作業人員は1人

 今回実証した乾田直播の体系では、レーザーレベラ、100馬力クラスのトラクタ、乗用管理機が必要とされたため、大規模で麦・大豆の生産でも機械を併用できる経営体への導入が望ましいと考えられる。その場合、減価償却費はさらに軽減できることが見込まれる。

今後の課題と展望

 今回実証した乾田直播栽培は、慣行の移植栽培と比較して、育苗・移植作業(播種作業)の労働時間が縮減でき、経営的にもプラスとなったが、減価償却費は高くなった。播種前後の作業工程はさらに節減できると考えられることから、効率的な作業工程のさらなる検討が必要である。
 また、実証した経営体では、今回の実証結果を受け、取組面積を拡大させ、継続して実証を進めたいという意向があることから、次年度以降、前耕作業等の見直しや播種量の検討等、技術的な改善を実証していきたい。
 さらに、今回の結果を踏まえて、地域への普及を図っていきたい。

●実証年度及び担当普及センター
(令和5年度滋賀県大津・南部農業農村振興事務所、農業技術振興センター農業革新支援部)